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条文・総務省FAQ・公式APIで確認

Mauticのセキュリティと個人情報の扱い

マーケティングオートメーションは、氏名・メールアドレス・閲覧履歴という個人データの塊を扱う仕組みです。日本で運用すると、個人情報保護法と改正電気通信事業法(外部送信規律)が同時に関わってきます。この記事は、e-Gov法令検索APIで取得した条文、総務省の外部送信規律FAQの原文、Mauticの現行公式ドキュメント、GitHubの公式セキュリティアドバイザリ(実数54件)だけを使って整理したものです。
結論を先に言うと、外部送信規律の入口は「Cookieを使っているか」ではなく「そもそも電気通信事業を営んでいるか」でした。そして公開前の検証で、私たち自身の理解の誤りが5件見つかりました。その訂正も本文に載せます。

公開:2026年7月24日 データ取得日:2026年7月24日 読了:約14分

01なぜ条文から調べたか

Mauticの導入を検討すると、必ず「個人情報の扱いは大丈夫か」「Cookie規制に引っかからないか」という話が出ます。ところが日本語の情報は「対応が必要です」とだけ書いて、何条の何が求めているのかを示していないものが多く見つかりました。これでは、自社が対象なのかどうかすら判断できません。

そこで、二次情報を経由せずに e-Gov法令検索APIで条文そのものを取得し、総務省令まで降り、総務省の公式FAQの原文まで当たるという方法を取りました。ソフトウェア側も同じで、Mauticの挙動は現行の公式ドキュメント、脆弱性の件数はGitHubの公式アドバイザリAPIの実データで確認しています。

この記事の立ち位置
本記事は条文と公的資料に何が書いてあるかを示すもので、法的助言ではありません。個別の事案で自社が対象事業者に当たるか、特定の構成が除外に当たるかの判断は含みません。判断が必要な場面では、専門家に条文の文言ごとご相談ください。

02入口は「電気通信事業を営んでいるか」

いわゆる「Cookie規制」の正体は電気通信事業法 第27条の12(情報送信指令通信に係る通知等)です。条文はまず名宛人をこう限定します。

電気通信事業者又は第三号事業を営む者(内容、利用者の範囲及び利用状況を勘案して利用者の利益に及ぼす影響が少なくないものとして総務省令で定める電気通信役務を提供する者に限る。)は、(…)情報送信指令通信(…)を行おうとするときは、(…)あらかじめ、(…)当該利用者に通知し、又は当該利用者が容易に知り得る状態に置かなければならない。

電気通信事業法 第二十七条の十二(e-Gov法令検索API・2026年7月24日取得)

「第三号事業」は同法第164条第1項第3号に掲げる電気通信事業の略称として条文中で定義され、同条3項により登録・届出が不要な第三号事業者にも27条の12は適用されます。ここまでは「届出が要らないから関係ない」とは言えない、という話です。

ところが、その手前にもっと大きな入口があります。総務省FAQが明示しています。

電気通信事業者又は第三号事業を営む者(いずれも電気通信事業を営む者)で、「利用者の利益に及ぼす影響が少なくない電気通信役務」を提供している電気通信事業者です。
なお、「電気通信事業(電気通信事業法(以下「法」という。)第2条第4号)」を営んでいない場合は、法の適用を受けないので、仮に情報の外部送信が行われていたとしても、外部送信規律の対象にはなりません。

総務省 外部送信規律FAQ 問1-8(2026年7月24日取得)

そして同じFAQは、具体例まで名指しで答えています。

総務省FAQが「対象にならない」としている例(いずれも自己の需要)
問1-12小売業者の自社サイトでの商品販売「本来業務である小売業の遂行の手段として電気通信を用いているに過ぎず、自己の需要のために電気通信サービスを提供しているため、『電気通信事業』に該当せず、外部送信規律も適用されません。」
問1-13実店舗なし・専ら自社ECの場合「本来業務である小売業の遂行の手段として電気通信を用いているに過ぎないことには変わりはないため、Q1-12のケースと同様、外部送信規律は適用されません。
問1-18サービスの案内ページ「自己の需要によるものであり、電気通信事業に該当しませんので、外部送信規律の対象にはなりません。
※ユーザーサポートページ・ユーザー向けポータルは「自己の需要によるものではない」ため、元のサービスが対象なら対象
問1-19来店予約のページ「来店予約のページは自己の需要によるものであり、『電気通信事業』に該当しないため、外部送信規律も適用されません。」
出典:総務省 外部送信規律FAQ(2026年7月24日取得)。引用は原文のまま。
ただし「自社サイトだから対象外」ではありません
同じFAQは、同じウェブサイトの中でもページの性質で結論が分かれることを示しています。会社案内のページは「自己の情報発信のために運営していると考えられ」対象外とされる一方、ニュース配信を行っているページは「各種情報のオンライン提供サービス」として施行規則22条の2の27第4号に該当し、対象になります。
Mauticの主戦場はまさにオウンドメディア・コンテンツマーケティングです。「うちは自社サイトだから関係ない」は、最も危険な早合点になり得ます。

03対象になる4類型の役務

電気通信事業を営んでいるとして、次の絞りが電気通信事業法施行規則 第22条の2の27です。条文は「ブラウザその他のソフトウェア(利用者が使用するパーソナルコンピュータ、携帯電話端末又はこれらに類する端末機器においてオペレーティングシステムを通じて実行されるものに限る。)により提供されるもの」に限ったうえで、4類型を挙げています。

対象役務の4類型(規則22条の2の27)と、総務省FAQ問1-9が挙げる具体例
条文の要件FAQ問1-9の具体例
一号他人の通信を媒介する電気通信役務利用者間のメッセージ媒介等
二号情報を記録・入力する電気通信を利用者から受信し、これにより記録・入力された情報を不特定の利用者の求めに応じて送信する機能を有する設備を他人の通信の用に供する役務SNS、電子掲示板、動画共有サービス、オンラインショッピングモール等
三号検索情報に対応して全てのウェブページのドメイン名その他の所在情報を出力する機能を有する設備を他人の通信の用に供する役務オンライン検索サービス
四号前号のほか、不特定の利用者の求めに応じて情報を送信する機能を有する設備を他人の通信の用に供する役務であって、不特定の利用者による情報の閲覧に供することを目的とするものニュース配信、気象情報配信、動画配信、地図等の各種情報のオンライン提供
三号の「全ての」は効きます。FAQ問2-4は「『全てのウェブページ』の所在に関する情報を検索することが要件とされているため、特定分野に限った検索サービスは第3号の役務には当たりませんが、第4号の役務に含まれます」としています。つまり絞り込んでも四号で拾われる設計です。

なお、FAQ問1-7は「当社のウェブサイトではCookieを利用していません。適用は受けないと考えてよいでしょうか」に対し、「Cookieを利用していなかったとしても規律対象となります」と答えています。規律の対象は「情報を外部に送信するよう指令するプログラム等を端末に送信する行為全般」であって、Cookieという技術ではありません。

04自社サーバー向けでも「外部送信」に当たる

ここは私たちが最初に取り違えた点なので、はっきり書きます。「送信先が自社のサーバーだから外部送信ではない」は成り立ちません。

(当該利用者以外の者の電気通信設備とは)利用者が電気通信役務を利用する際に通信の相手方となっている者の電気通信設備のことをいいます。利用者がウェブサイトの閲覧やアプリケーションの利用を行う際に(利用者が認識しているかを問わず)通信の相手方となっている第三者のサーバだけでなく、当該電気通信役務を提供する電気通信事業者(ウェブサイトの運営者やアプリケーションの提供者)のサーバも含まれます。
※「外部送信規律について」の絵では、便宜上「第三者のサーバ」としていますが、規律の対象としては、当該電気通信役務の提供者のサーバに外部送信される場合も含まれます。

総務省 外部送信規律FAQ 問1-16(2026年7月24日取得)

Mauticをセルフホストしていても、マネージドで使っていても、ブラウザから見れば「利用者以外の者の設備」への送信です。したがって論点は「外部送信に当たらない」ではなく、「除外規定に乗るか」だけになります。

05通知・公表すべき3つの事項と書き方

対象になる場合、何を書くかは施行規則 第22条の2の29が「情報送信指令通信ごとに」3つ定めています。

通知・公表すべき事項(規則22条の2の29)
一号情報の内容送信されることとなる利用者に関する情報の内容
二号取り扱う者の名称その情報の送信先となる電気通信設備を用いて、当該情報を取り扱うこととなる者の氏名または名称
三号利用目的その情報の利用目的
二号は送信先の「設備」ではなく、その設備を用いて情報を取り扱うことになる「者」の名称を求めています。Mauticを他社のマネージドで運用している場合、ここに何を書くかは検討が要ります。

書き方は規則 第22条の2の28が定めます。日本語を用い、専門用語を避け、及び平易な表現を用いること操作を行うことなく文字が適切な大きさで表示されること/各事項を容易に確認できること。通知なら該当事項または掲載画面の所在を即時に表示、公表なら当該ウェブページかそこから容易に到達できるウェブページに表示、とされています。

プライバシーポリシーへのリンクは「可能」
利用目的(三号)については、総務省FAQ問4-6が「利用目的が記載されたプライバシーポリシーへのリンクを示す方法によって、通知又は容易に知り得る状態に置くことは可能ですと明言しています。ただし「単に当該リンク先を表示するだけではなく、リンク先で表示される内容の概略を併せて示すことが望ましい」とされ、問4-5は「リンク先が英語等日本語以外で記載されている場合は、リンクの表示のみの対応は認められません」としています。海外SaaSのポリシーに丸投げするやり方は、ここで止まります。

064つの除外と、その効き方の限界

27条の12にはただし書があり、4つの除外が並びます。ここが実務上いちばん重要で、同時にいちばん誤解されている部分です。

通知・公表が不要となる4類型(法27条の12ただし書)
一号役務提供に必要な情報規則22条の2の30が5類型を列挙(適正表示その他当該電気通信役務の提供のために真に必要な情報/入力情報の再表示/認証情報の再表示/不正行為の検知/設備の負荷軽減)
二号自社が発行した識別符号を自社設備へ送る場合FAQ問6-1いわく「First Party Cookieに保存されたIDなど」
三号利用者が同意している情報
四号オプトアウト措置を講じている場合公表すべき事項は規則22条の2の31が7つ定める(措置を講じている旨/送信と利用のどちらを停止するか/受付方法/利用が制限される場合の内容/送信される情報の内容/その情報を取り扱うこととなる者の氏名又は名称その情報の利用目的

ここで決定的なのが、二号は「識別符号そのもの」しか除外しないことです。

問6-3:First Party Cookieに保存されたIDと一緒に当該電気通信事業者(当該電気通信役務の提供者)に送信される利用者に関する情報も同様に除外されますか。
除外されません。ただし、6-2にあるとおり、当該電気通信事業者に送信される情報は、原則として「真に必要な情報」に該当すると考えられますので、この原則の範囲内では除外されます。

総務省 外部送信規律FAQ 問6-3(2026年7月24日取得)

つまり、識別子と一緒に送られる閲覧URL・ページタイトル・流入元は、二号では落ちません。受け皿は一号(規則22条の2の30第1号の「その他当該電気通信役務の提供のために真に必要な情報」)になりますが、そこにも限定が付いています。

※2:当該電気通信役務を提供する電気通信事業者に送信される情報であっても、利用者が当該電気通信役務を利用する際に必ずしも必要がなく、一般の利用者から見て送信されることが通常想定できない情報や、通常想定できない利用目的で利用される情報については、該当しません。

総務省 外部送信規律FAQ 問6-2 ※2(2026年7月24日取得)
MAにとってここが本丸
マーケティングオートメーションが集めるのは、まさに「役務の提供に必ずしも必要ではないが、後で施策に使う」行動履歴です。問6-2※2の限定は、この用途に正面から当たり得ます。「1st Party Cookieだから除外」で話を終わらせるのは、条文とFAQの読み方として不十分です。

07Mauticが実際に使っている追跡子

では、Mauticは実際に何で追跡しているのか。現行の公式ドキュメント(mautic/user-documentation、ブランチ7.1)はこう書いています。

When using the tracking script, Mautic tracks Contacts with third party cookies on the Mautic instance's domain and/or the browser's local storage. Although the script writes first party cookies to the tracked domain which expires with the session, they're not used for tracking.

Mautic 公式ドキュメント user-documentation 7.1「How are Contacts tracked with the tracking script?」

公式のCookie一覧表も明確です。

Mautic公式ドキュメントのCookie一覧(現行7.1)
名前有効期限追跡に使う?公式の説明
mautic_device_id1 yearYesトラッキングピクセル用、またはlocal storageに同じキーが無い場合にコンタクトを追跡するために使用
mautic_referer_idsessionYes最後に追跡したページへの参照を保持
mtc_idsessionNo「No longer used - deprecated in Mautic 2.13 - but retained for backwards compatibility.」
mtc_sidsessionNomautic_device_id と同じ内容の非推奨Cookie
JavaScriptトラッキングが自動で取得する項目として公式が挙げているのは Page Title</title>タグの間のテキスト)/Page Language(ブラウザの言語)/Page Referrer(流入元URL)/Page URL(現在のURL)の4つです。トラッキングピクセル(mtracking.gif)については「The tracking pixel uses third party cookies for tracking.」と明記されています。
私たちが書けない線
Nurto は Mautic のマネージドサービスを提供している立場です。だからこそ「1st Party Cookieだから二号で除外され、通知は不要です」とは書きません。上のとおり、Mauticが追跡に使っているのはMauticインスタンス側ドメインのサードパーティCookieとlocal storageのdevice IDで、FAQ問6-1が二号の例に挙げる「First Party Cookieに保存されたID」とは形が違います。加えて問6-3のとおり、一緒に送られる閲覧履歴は二号では除外されません。
この構成が除外に乗るかどうかについて、公的資料に明示の記述は確認できた範囲では見当たりませんでした。私たちの側で結論を出せる問題ではないので、出しません。専門家に条文とFAQの文言ごとご相談ください。

08個人情報保護法で発生する義務

外部送信規律とは別に、Mauticが保持するコンタクト情報(氏名・メールアドレス・行動履歴)は個人データに当たり得ます。e-Govで確認した条文のうち、運用に直結するのは次の4つです。

見出しMautic運用で何が起きるか
23条安全管理措置「その取り扱う個人データの漏えい、滅失又は毀損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置」。サーバーの保護、アクセス制御、そして脆弱性修正の適用がここに入ってくる
25条委託先の監督「個人データの取扱いの全部又は一部を委託する場合は、その取扱いを委託された個人データの安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない」。マネージドにしても、委託した側のこの義務は消えない
26条漏えい等の報告等一定の事態が生じたとき、個人情報保護委員会への報告と本人への通知。ただし委託を受けた側は、委託元に通知すれば自らの報告義務を免れる(=報告する主体は委託元になる)
28条外国にある第三者への提供の制限同等水準国や基準適合体制を整備している者を除き、あらかじめ本人の同意が必要。同意を得る際は当該外国の制度等の情報提供も必要(2項)
自分の商売に不利な事実
「マネージドにすれば法対応が丸ごと無くなる」というのは誤りです。25条の監督義務は委託した側に残ります。マネージドで実際に軽くなるのは、23条の安全管理措置の実装作業とアップグレード運用であって、監督責任そのものではありません。委託先を選ぶときは「監督に使える材料(構成・所在地・更新方針)を出してくるか」で見てください。

09海外に置くと何が増えるか

Mauticはセルフホストできるので、コストだけを見て海外の安価なVPSに置く選択がしばしば取られます。このとき増えるのが28条の検討です。

28条の構造(条文の文言から)
  • まず、外国かどうか「本邦の域外にある国又は地域」。ただし我が国と同等の水準にあると認められる制度を有している外国として個人情報保護委員会規則で定めるものは除かれる
  • 次に、体制を整備しているか「相当措置を継続的に講ずるために必要なものとして委員会規則で定める基準に適合する体制を整備している者」は、同条1項の「第三者」から除かれる
  • どちらにも当たらなければあらかじめ本人の同意が必要になり、同意取得の際には当該外国の制度等の情報提供も要る(2項)
  • 体制整備で対応した場合継続的な実施を確保するために必要な措置を講じ、本人の求めに応じて情報提供する義務が生じる(3項)
国内に設置すれば、この検討自体が生じにくくなります。ただし該当性は構成によって変わり、委託先が海外拠点を持つ場合の論点は別に残るため、個別に確認してください。

10脆弱性を公式APIで54件数えた

ここからはセキュリティです。「Mauticは安全か」に感想で答えても意味がないので、GitHubの公式セキュリティアドバイザリを実数で集計しました。対象は mautic/mautic、取得日は2026年7月24日です。

mautic/mautic の公開アドバイザリ(2026-07-24時点)
54公開アドバイザリ総数
6critical
20high
23medium
5low
期間は2021年1月14日〜2026年5月29日。54件すべてにCVE番号が採番されています。
公開年別の件数(横棒=最大値17件を100%とした相対長)
202117
20223
20230
202412
202514
20268
2026年は年の途中(7月24日時点)の数字なので、他の年と単純に比べられません。また、これは脆弱性が作り込まれた年ではなく、アドバイザリが公開された年です。過去のCVEがまとめて公開されることがあるため、2021年に17件が集中しています。

critical 6件の内訳

公開日CVE概要アドバイザリ記載の修正版
2026-05-29CVE-2026-9559Path Traversal via Campaign Import7.1.2
2026-05-29CVE-2026-9558Server-Side Template Injection (SSTI) in Theme Templates7.1.2 / 6.0.9 / 5.2.11 / 4.4.20
2025-12-02CVE-2025-13828権限のない利用者がMarketplaceのcomposerパッケージを導入・削除できる4.4.18 / 5.2.9 / 6.0.7
2025-02-25CVE-2024-47051Remote Code Execution & File Deletion in Asset Uploads5.2.3
2021-01-14CVE-2020-35125リファラ経由のXSS2.16.5 / 3.2.4
2021-01-14CVE-2020-35124リファラ経由のXSS2.16.5 / 3.2.4
件数より重要な事実
2026年5月29日に公開された7件(critical 2件を含む)に対し、修正版 7.1.2 / 6.0.9 / 5.2.11 は前日の2026年5月28日にリリースされています。つまり「先に直してから公表する」運用が確認できます。54件という数字は、規模の大きなPHPアプリケーションとして特異に多いことを示すものではありません。実務上のリスクは件数ではなく、修正版が出ているのに適用しないことのほうです。
ただし、確認できなかったこと
上表の 4.4.204.4.18アドバイザリにそう記載されている値ですが、実体を確認できませんでした。mautic/mautic のタグを照会すると 4.4.13(2024-09-18)は存在する一方、4.4.18・4.4.20 はいずれも 404 で、Packagist の mautic/core でも4.4系の最新は4.4.13です。「4.4系まで遡って修正版が出ている」とは書けません。4.4系を使っている場合、記載の版に更新できない可能性があるため、サポート中の系列への移行を前提に考えるのが安全です。

再現方法

# 総数(2026-07-24時点で54件=1ページに収まる。100件を超えたらページングが要る)
gh api "repos/mautic/mautic/security-advisories?per_page=100" --jq 'length'

# 公開日・深刻度・CVE・概要の一覧
gh api "repos/mautic/mautic/security-advisories?per_page=100" \
  --jq '.[] | [.published_at[0:10], .severity, .cve_id, .summary] | @tsv' | sort -r

# 修正版タグが実在するかの確認
gh api "repos/mautic/mautic/git/ref/tags/4.4.20"   # → 404

# 法令の条文はe-Gov法令検索APIで取得
curl -s "https://laws.e-gov.go.jp/api/1/lawdata/359AC0000000086"  # 電気通信事業法
curl -s "https://laws.e-gov.go.jp/api/1/lawdata/360M50001000025"  # 同 施行規則
curl -s "https://laws.e-gov.go.jp/api/1/lawdata/415AC0000000057"  # 個人情報保護法

11この記事で間違えていたこと

この記事は公開前に検証を1本通しています。その結果、私たち自身の理解の誤りが5件見つかりました。公開前に直せたものですが、同じ誤解は広く出回っているので、そのまま載せます。

① 総務省FAQには自社サイトの該当性が書かれていない 「総務省FAQも確認したが、引用できる明確な記述を特定できなかった」問1-8・1-12・1-13・1-18・1-19が名指しで答えている 最初の草稿では「条文だけでは決まらない」と書いていました。原因は総務省のページがShift_JISで、UTF-8として読んで日本語を壊していたことです。自分の測定器の故障を、資料の不存在と取り違えていました。
② 送信先が自社サーバーなら扱いが変わる 「送信先が第三者ではなく自分のMauticサーバーである点が判断に効いてくる」FAQ問1-16により、提供者自身のサーバも「利用者以外の者の電気通信設備」に含まれる 効いてくるのは「外部送信でなくなる」ことではなく、除外規定に乗るかどうかだけでした。
③ Mauticの追跡子は mtc_id 「Mauticのトラッキングは自分のインスタンスに向けて mtc_id を送る」mtc_id は追跡に使われず、Mautic 2.13で非推奨。実際は mautic_device_id とlocal storage 原因はアーカイブ済みのドキュメントリポジトリ(最終更新2020年5月)を出典にしていたことです。現行は mautic/user-documentation です。ついでに、旧ドキュメントにあったフィンガープリント機能(Resolution/Platform)も現行ドキュメントには記載がなく、7.1.3のコードでも既定で無効(track_by_fingerprint => false)でした。収集項目として並べるのは実態に合わないため削除しました。
④ オプトアウト時に公表すべき事項は5つ 「規則22条の2の31が5つ定めています」条文は一号〜七号の7つ 「情報を取り扱うこととなる者の氏名又は名称」と「その情報の利用目的」の2つを数え落としていました。
⑤ 4.4系まで遡って修正版が出ている 「4.4系まで遡って修正版が出ている点も、保守の姿勢として確認できる」4.4.18・4.4.20 はタグもリリースも存在しない(4.4系の最終は4.4.13=2024-09-18) アドバイザリの記載を、リリースの実在を確かめずに書いていました。
なぜ訂正を公開するか
①と③は、どちらも「調べた」つもりで一次情報に当たれていなかったという同じ型の失敗です。①は文字コード、③は6年前で更新の止まったリポジトリ。出典のURLを書いていても、それが現行版かどうかは別問題でした。訂正の経緯を隠すと、読者は同じ落とし穴に落ちます。

12この数字で分からないこと

自分の指標の限界を先に書きます。ここを書かない数字は信用しないでください(この記事のものも含めて)。

この記事の数字が言えないこと
本体のみの数字対象は mautic/mautic 本体だけ。プラグイン・テーマ・依存パッケージは含みません
「公開された数」であって「存在した数」ではない報告されていないものはカウントされません。件数が少ないことは安全の証明になりません
他ツールとは比較できない商用SaaSは脆弱性を個別公表しないことが多く、同じ土俵の数字が存在しません。多い/少ないとは言えません(比較不能であって優劣の話ではない)
深刻度は自社構成では変わる表記はGitHubアドバイザリのもの。実際の危険度は、その機能を使っているか・外部から到達できるかで変わります
当てはめの結論は出していない自社が対象事業者に当たるか、Mauticの構成が除外に乗るかは本記事の範囲外です
FAQの更新日が不明総務省FAQはページ内に更新日の表示がありません。2026年7月24日時点で掲載されていた内容として引用しています
賞味期限について
個人情報保護法は令和8年法律第56号(2026年7月17日公布)により改正され、公布から順次施行が予定されています。本記事が引用した23・25・26・28条は2026年7月24日時点の条文です。ソフトウェアの仕様と脆弱性情報も随時更新されます。

13実務チェックリスト

以下は条文とFAQの内容を作業項目に置き換えた確認の手がかりで、貴社が対象事業者に当たるかどうかの判断を含みません。

外部送信規律の入口は「Cookieを使っているか」ではなく、「電気通信事業を営んでいるか」だった。そして自社サーバー向けの送信も外部送信に含まれる
最大のセキュリティリスクは、脆弱性が54件あることではなく、修正版が前日に出ているのに更新しないことだった。 本記事の条文・引用・数値は、e-Gov法令検索API/総務省の公開FAQ/Mautic現行公式ドキュメント/GitHub公式APIから取得し、再現コマンドを併記しています。当てはめの判断が要る箇所は、その旨を明記して結論を書いていません。公開前の検証で見つかった自分の誤り5件は§11に掲載しています。

更新の当番、こちらで持ちます。

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よくある質問

Mauticを使うと外部送信規律(改正電気通信事業法)の対象になりますか?

Mauticを使っていること自体では決まりません。総務省FAQ問1-8は「電気通信事業(法第2条第4号)を営んでいない場合は、法の適用を受けないので、仮に情報の外部送信が行われていたとしても、外部送信規律の対象にはなりません」としています。問1-12・1-13は小売業者の自社サイトでの商品販売を、問1-18はサービスの案内ページを、問1-19は来店予約ページを、いずれも自己の需要によるもので電気通信事業に該当しないため対象外としています。一方、同じサイト内でもニュース配信など各種情報のオンライン提供を行うページは規則22条の2の27第4号に該当し対象になります。

送信先が自社のMauticサーバーなら「外部送信」にならないのですか?

なりません、とは言えません。FAQ問1-16は「通信の相手方となっている第三者のサーバだけでなく、当該電気通信役務を提供する電気通信事業者(ウェブサイトの運営者やアプリケーションの提供者)のサーバも含まれます」と明記し、さらに「規律の対象としては、当該電気通信役務の提供者のサーバに外部送信される場合も含まれます」と注記しています。自社サーバー向けでも外部送信には当たり、問題は除外規定に乗るかどうかになります。

Mauticのトラッキングは何を使って追跡していますか?

現行公式ドキュメント(user-documentation 7.1)は「Mautic tracks Contacts with third party cookies on the Mautic instance's domain and/or the browser's local storage」としています。追跡に使われるのは有効期限1年の mautic_device_id とブラウザのlocal storageのdevice IDです。よく紹介される mtc_id は「isn't used to track the Contact」「No longer used - deprecated in Mautic 2.13 - but retained for backwards compatibility」と明記されており、追跡には使われていません。

識別子と一緒に送られる閲覧URLやページタイトルは通知が不要ですか?

法27条の12第2号(識別符号)では除外されません。FAQ問6-3は「First Party Cookieに保存されたIDと一緒に当該電気通信事業者に送信される利用者に関する情報も同様に除外されますか」に対し「除外されません」と回答しています。ただし「当該電気通信事業者に送信される情報は、原則として『真に必要な情報』に該当すると考えられますので、この原則の範囲内では除外されます」とも述べており、問6-2の※2は「必ずしも必要がなく、一般の利用者から見て送信されることが通常想定できない情報や、通常想定できない利用目的で利用される情報については、該当しません」と限定しています。

マネージドサービスに任せれば個人情報保護法の義務は無くなりますか?

無くなりません。個人情報保護法25条は「個人データの取扱いの全部又は一部を委託する場合は、その取扱いを委託された個人データの安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない」と定めており、委託した側に監督義務が残ります。マネージドで軽くなるのは23条の安全管理措置の実装作業とアップグレード運用であって、監督義務そのものは委託元に残ります。

Mauticの脆弱性はどのくらい報告されていますか?

GitHubの公式セキュリティアドバイザリを2026年7月24日時点で集計すると、mautic/mautic で54件が公開されています。内訳はcritical 6件、high 20件、medium 23件、low 5件で、54件すべてにCVE番号が採番されています。期間は2021年1月14日から2026年5月29日まで。2026年5月29日公開の7件に対し修正版7.1.2などが前日の5月28日にリリースされており、先に直してから公表する運用が確認できます。件数そのものより、修正版が出ているのに更新しないことのほうが実務上のリスクになります。

参考・出典

  1. 電気通信事業法 第27条の12(情報送信指令通信に係る通知等)、第2条第7号イ(「第三号事業」の定義)、第164条第1項第3号・第3項 — e-Gov法令検索API(法令ID 359AC0000000086)で2026年7月24日に全文取得
    https://laws.e-gov.go.jp/law/359AC0000000086
  2. 電気通信事業法施行規則 第22条の2の27〜第22条の2の31(対象役務の4類型/通知の方法/通知事項/真に必要な情報/オプトアウト時の公表7事項) — e-Gov法令検索API(法令ID 360M50001000025)で同日取得
    https://laws.e-gov.go.jp/law/360M50001000025
  3. 総務省「外部送信規律FAQ」(問1-7/1-8/1-9/1-12/1-13/1-16/1-18/1-19/2-4/4-5/4-6/6-1/6-2/6-3)— 2026年7月24日取得。ページ内に更新日の表示なし
    https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/d_syohi/gaibusoushin_kiritsu_00002.html
  4. 総務省「外部送信規律」法令・ガイドライン・パンフレット
    https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/d_syohi/gaibusoushin_kiritsu_00001.html
  5. 個人情報の保護に関する法律 第23条・第25条・第26条・第28条 — e-Gov法令検索API(法令ID 415AC0000000057)で同日取得
    https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057
  6. Mautic 現行公式ドキュメント mautic/user-documentation(ブランチ 7.1・最終更新2026-07-22)「Managing Contacts」— 追跡の仕組み/Cookie一覧/収集項目
    https://github.com/mautic/user-documentation/blob/7.1/docs/contacts/manage_contacts.rst
  7. GitHub セキュリティアドバイザリ(mautic/mautic)— GitHub API repos/mautic/mautic/security-advisories で2026年7月24日に54件を取得・集計
    https://github.com/mautic/mautic/security/advisories
  8. Mautic リリース・タグ(7.1.3=2026-07-07/7.1.2・6.0.9・5.2.11=2026-05-28/4.4系の最終は4.4.13=2024-09-18)— GitHub API repos/mautic/mautic/releases および git/ref/tags
    https://github.com/mautic/mautic/releases
本記事は条文および公的資料の記載を示すものであり、法的助言ではありません。個別の事案における該当性の判断は、必ず専門家にご確認ください。記載は2026年7月24日時点の情報に基づきます。個人情報保護法は令和8年法律第56号(2026年7月17日公布)により順次改正が施行される予定です。法令は改正され、ソフトウェアの仕様および脆弱性情報も随時更新されます。誤りを見つけられた場合はお問い合わせからご指摘ください。訂正の経緯もあわせて公開します。Mauticは Mautic Inc. の商標です。本サービスは Mautic 公式および Mautic Inc. とは提携関係にありません。