01なぜ届かないのか ── 受信側は「なりすまし」を疑っている
GmailやYahoo!メールなどの受信側は、届いたメールが本当にそのドメインから送られたものか(なりすましでないか)を厳しくチェックしています。この本人確認に使われるのが、SPF・DKIM・DMARCという3つのメール認証のしくみです。ここが正しく設定されていないと、内容がまともでも迷惑メールフォルダ行き、あるいは配信拒否になります。
Mauticは高機能なメール配信エンジンですが、「認証をどう設定するか」はあなた(運用者)の責任範囲です。ここが、自前運用でいちばんつまずくポイントです。
02SPF / DKIM / DMARC とは(役割を正確に)
| しくみ | 何を保証する | 検査するドメイン |
|---|---|---|
| SPF | そのIPが、そのドメインの代理送信を許可されているか | MAIL FROM(=Return-Path・受信者には見えない) |
| DKIM | 電子署名による本人性と、本文が改ざんされていないこと | 署名ドメイン(d=) |
| DMARC | 受信者に見えるFromが、SPF/DKIMと整合(アライメント)しているか+失敗時の扱い | Fromヘッダのドメイン |
ポイントは、SPFもDKIMも、受信者が実際に見る「From欄」そのものは検査していないこと(SPFはRETURN-Path、DKIMは署名ドメインを見る)。この隙間を埋めるのがDMARCで、「Fromのドメインが、SPFかDKIMのどちらかと一致しているか」を要求します。
実際のDNSレコードはこんな形です:
SPFの ~all はSoftFail(疑わしいが拒否せず)、-all はHardFail。SPFは1ドメインに1本のみ・DNS参照は10回まで(超過でエラー)。DMARCの p は none(監視)→quarantine(隔離)→reject(拒否)と段階的に強めます。
DMARCは SPFアライメント(From=MAIL FROMのドメイン一致) または DKIMアライメント(From=署名d=ドメイン一致) のどちらか一方が成立すれば合格。両方失敗で不合格です。この「アライメント」が、次のSESの落とし穴の核心になります。
03最大の落とし穴 ── SESで「SPFは通るのにDMARCが落ちる」
Amazon SESは高品質な配信基盤ですが、初期設定のままだとDMARCで失敗しやすいという、非常に有名な罠があります。AWSの公式ドキュメントも明言しています。
- SESは既定で、MAIL FROM(エンベロープ送信者)に
amazonses.comのサブドメインを使います。 - そのためSPFチェック自体は
amazonses.comに対して「通る」。 - しかし受信者が見るFromはあなたのドメイン。
amazonses.com≠ あなたのドメイン なのでSPFアライメントが取れず、SPF経由のDMARCは失敗します。
「SPFレコードは書いたのにGmailで迷惑メール判定される」の典型がこれ。SPFの合否ではなくアライメントで落ちているのです。対策は2つ。
対策① カスタムMAIL FROMドメインを設定する
自ドメインのサブドメイン(例 mail.example.com)をカスタムMAIL FROMとしてSESに設定します。すると MAIL FROM が自ドメイン配下になり、SPFアライメントが成立します。必要なDNSは次の2本:
対策② Easy DKIMで署名する
SESのEasy DKIMを有効にすると、3本のCNAMEレコードが発行されます。これでドメイン検証とDKIM署名を兼ね、鍵は90日ごとに自動ローテーション。DKIM署名の d= が自ドメインになるのでDKIMアライメントも成立します。
この①②を両方やれば、SPF・DKIMの両方でアライメントが成立し、DMARCは安定して合格します。なお aspf(SPFアライメントモード)はrelaxed(既定)のままにしてください。aspf=s(strict)にするとSESでは合わなくなります。
04Amazon SES 設定チェックリスト
- Easy DKIM(3本のCNAME)を設定 → DKIMアライメント確保。
- カスタムMAIL FROMドメイン(MX+SPF)を設定 → SPFアライメント確保。
- DMARCは
p=noneから →ruaでレポート収集 → 整合を確認してquarantine→rejectへ段階移行。 - サンドボックス解除の申請:初期状態のSESは24時間で200通・最大1通/秒・検証済み宛先のみ。本番送信には解除申請が必要(初回応答の目安24時間)。
- 専用IPはウォームアップ:新規の専用IPは自動ウォームアップで最大45日かけて送信量を増やす。いきなり大量送信しない。
- バウンス・苦情の通知(Configuration Set+SNS)を設定し、無効アドレスを自動抑制。
※SES本番移行後の具体的な上限値はアカウントの利用実績に応じて変動し、固定値ではありません(AWSの仕様)。
05Mautic特有の注意 ── cronとバウンス処理
cronが無いと、そもそも送られない
Mauticはメールをいったんキュー(スプール)に溜め、cronで送信する構成が既定です。cronが未設定だと、キューに溜まったまま送られません。最低限、次の4つのcronを5分ずつずらして設定します:
SESのバウンスはReturn-Pathでは追えない
Mauticは本来 Return-Path を使ってバウンス(宛先不明の返送)を追跡しますが、SESはReturn-Pathを自前のアドレスで上書きするため、この方式が機能しません。正攻法は、SNS(Amazon Simple Notification Service)経由のWebhookコールバックでバウンス・苦情を受け取り、Mautic側で処理する構成です。設定しないと、無効アドレスへの送信が続いてレピュテーションが悪化します。
062024年からの Gmail / Yahoo 新ルール(必須)
2024年2月以降、GmailとYahoo!は送信者要件を厳格化しました。特に一括送信者(Gmail宛に1日5,000通以上)は、以下がすべて必須です(Google公式):
- SPF と DKIM の両方を設定(どちらか一方では不可)。
- DMARC を設定(最低ライン
p=noneでも可)。 - DMARCアライメント:FromがSPFまたはDKIMのドメインと整合していること。
- ワンクリック解除(RFC 8058:
List-Unsubscribeヘッダ)を実装。 - 迷惑メール率を0.3%未満に維持(理想は0.1%未満/Google Postmaster Toolsで計測)。
つまり、いまやSPF/DKIM/DMARCは「あれば良い」ではなく「無いと届かない」。マーケメールを配信するなら避けて通れません。
07到達率を上げる ── まとめチェックリスト
- SESで Easy DKIM + カスタムMAIL FROM(SPF/DKIM両アライメント)。
- DMARCは
p=none→レポート確認→quarantine→rejectと段階強化。aspf=sは付けない。 - Mauticの4つのcronを5分間隔で。バウンスはSNS Webhookで処理。
- 新ドメイン/新IPはウォームアップ。大量送信は専用IPを検討。
- ワンクリック解除実装+ダブルオプトインでリストの質を担保、苦情率<0.1%を目標。
- Google Postmaster ToolsとDMARC集約レポートで継続監視。
SPF/DKIM/DMARCのDNS設定、SESのアライメント調整、SNSバウンス連携、IPウォームアップ、ポリシー段階移行……。一つでも間違えると「送っているのに届かない」に戻ります。到達率こそ、運用を任せる最大の理由です。
到達率の設定、ぜんぶこちらで。
NurtoはMauticをあなた専用環境で提供し、Amazon SESの到達率設定(SPF/DKIM/DMARC・カスタムMAIL FROM・バウンス処理)まで代行します。あなたは施策に集中できます。
事前登録する(公開時にご案内)よくある質問
MauticでメールがGmailの迷惑メールに入るのはなぜ?
多くはメール認証(SPF・DKIM・DMARC)が正しく設定されていないためです。特にAmazon SESを使うと、SPF自体は通ってもFromドメインと不一致(アライメント不成立)でDMARCが失敗しやすく、迷惑メール判定されます。カスタムMAIL FROMドメインとEasy DKIMの設定で解決します。
SESでSPFが通っているのにDMARCが失敗するのはなぜ?
SESは既定で送信者(MAIL FROM)にamazonses.comのサブドメインを使うため、SPFはamazonses.comに対して通りますが、受信者が見るFromはあなたのドメインです。この不一致でSPFアライメントが取れず、DMARCが失敗します。自ドメインのカスタムMAIL FROMを設定するとアライメントが成立します。
2024年からのGmail・Yahooのメール要件とは?
2024年2月以降、Gmail宛に1日5,000通以上送る一括送信者は、SPFとDKIMの両方+DMARC設定、ワンクリック解除(RFC 8058)、迷惑メール率0.3%未満(理想0.1%未満)が必須です。未対応だと配信が制限されます。
参考・出典
- Amazon SESのDMARC準拠(アライメント/段階移行) — AWS公式ドキュメント
- カスタムMAIL FROMドメイン — AWS公式/専用IPのウォームアップ AWS公式/本番アクセス申請 AWS公式
- メール送信者ガイドライン(Gmail/Yahoo要件) — Google 公式ヘルプ
- Mautic cron設定 — Mautic 公式ドキュメント/バウンス処理 Mautic公式
- DMARC仕様 — RFC 7489(IETF)